創業融資における最初のハードルが「事業計画書(創業計画書)」の作成です。日本政策金融公庫の創業融資制度や信用保証協会の制度融資でも「事業計画書」の提出は必須となっております。
特に、開業時は実績がなく、銀行側からすれば「事業計画書」は最も重要な貸出の根拠であると同時に、担保の代わりとなるものです。そのため、事業計画書の完成度は融資額に大きく影響します。
事業計画書の書き方にはポイントが有ります。各ポイントを簡単に説明いたします。
日本政策金融公庫の記載例通りに書くだけでは不十分
日本政策金融公庫の初回相談時に、事業計画書の用紙や計画書の記載例を渡されます。
融資申請でよくありがちな失敗として、この記載例通りに事業計画書を作ってしまうことが挙げられます。
多くの場合、事業計画書を作った経験などなく、また初回相談時に担当者から書き方の説明を詳しく受けられるわけではないので、仕方なく記載例通りに作ってしまいます。しかし、記載例通りに書くと事業計画書として不十分な内容になり、結果として融資に通らない可能性が高いといえます。
その理由は以下のとおりです。
・記載例は全体的に内容の説明が不十分である。
・創業計画書の記入スペースが小さく、枠内で書き切ろうとすると必然的に説明量が不足する。
そこで、内容を十分に盛り込んだ事業計画書とするには、自らのフォームで補足資料を作成する必要があります。
事業計画書は、「計画本文」(文章)と「数値計画」(数字)に分けられる
事業計画書は大きく分けて、「計画本文」と「数値計画」があります。
計画本文は、創業動機や事業経験、セールスポイントなどを文章で記述していきます。
一方、数値計画には、当初の資金計画や月別の損益計画や資金繰り計画などを数字で組み立てていきます。
計画本文と数値計画は互いに独立したものではなく、密接にリンクしている必要があります。
計画本文はWordで、数値計画はExcelで、補足資料として作成します。
なお、パワーポイントなどで見栄えを良くして作る必要はありません。
計画本文の各項目の書き方
計画本文は、最初から文章にしようと考えずに、まずは箇条書きで出来る限り項目を洗い出してみて、そこから文章化していくと書きやすくなります。
①創業動機
「なぜ、その事業を始めようと思ったのか?」を書きます。前職など過去の経緯やきっかけ、その事業に対する思いを存分にアピールして下さい。内容や構成にもよりますが、書く量が多いほど事業に対する真剣度が伝わります。量としてはA4 1枚くらいで十分です。
②過去の事業経験
過去の経験は融資審査の中でとても重視されます。これまでの実績は、今後その創業者が事業を成功させて、借入をきちんと返済してくれるかの大きな判断基準となるためです。
経験は内容をただ書くのではなく、今後の事業展開でどのように役立つかもアピールしてください。
③商品・サービスの内容、商流図
取り扱う商品やサービスの内容を素人にもわかるように書きます。パンフレットやメニューを作成している場合は一緒に提出することもおすすめです。取引の流れが複雑になる場合は、商流図(ビジネスフロー)を添付すると担当者の理解につながります。
④強み・セールスポイント・差別化
③の続きで、扱う商品・サービスについて、競合他社との違いを明確にする必要があります。同業者と同じような商品・サービスを提供するだけではお客さんを呼びこむことができません。競合と比較して、どこに強みを有しているのか、差別化できているのかを書きます。
なお、競合と比較する上での切り口には、例えば以下の様な要素があります。
・価格
・商品・サービスそのもの
・ターゲット
・マーケティング戦略
・商圏内の競合数
数値計画の作り方
①売上計画をいかに納得させられるか
毎月の売上を、主要商品・サービスごと/店舗ごとに分解した上で、
販売数×平均販売単価(または来客数×平均客単価)の算式により数値を積み上げて算出します。
平均単価は自分が売る商品・サービスやターゲットに応じて自ら設定します。
販売数・来客数については、すでに特定の販売先が確保できているなど、確実な数字が見えている場合はその数字を記入します。しかし、そこまで準備できていることの方が少数です。そのような場合は、販売方法や販促方法、場合によっては商圏調査などマーケットリサーチを行い、販売数を設定します。季節変動がある場合はそれも計画に織り込みます。
売上を作れることをいかにして担当者に納得させられるかが、融資審査のキーポイントです。その説得材料として、計画本文に記載する「経験・実績」や「強み・差別化」であったり、買ってもらうための仕組み=マーケティング戦略が重要となります。
②損益計画、資金繰り計画
仕入金額や、家賃や人件費など毎月の経費を洗い出し、勘定科目ごとに概算額を記入します。設備投資に係る減価償却費も忘れず計上します。(※減価償却費についての説明はここでは割愛します。)
これらの各金額と売上計画から利益を算出し、税金を計算します。ここで、
税引後利益+減価償却費>返済額
※税引後利益+減価償却費=簡易CF(キャッシュフロー)ともいい、返済原資にあたる金額です。
の算定式を満たしていれば、キチンと返済ができる計画といえます。
③資金計画(設備資金・運転資金の見積もり)
資金の使い道は大きく「設備資金」と「運転資金」の2つに分けられます。
設備資金とは、店舗や内装、備品など設備にかかる金額を指します。設備資金の場合には、その設備の見積書を添付する必要があります。
運転資金とは、事業上必要な仕入や経費の支払いにかかる金額で、②損益計画で算出した仕入や経費の金額(2~3ヶ月分程度)を記入します。
設備資金+運転資金-自己資金=必要融資金額となります。
まとめ
ここまで各ポイントを説明してきましたが、いかかだったでしょうか。
おそらく内容を読んでいくだけでも大変だったかと思います。
上記の内容をすべて理解してから作成に取り掛かる必要はなく、実際に試行錯誤して作ってみながら各ポイントを外していないかを確認して下さい。重要なのは「相手に伝わる事業計画書を作成する」という視点です。
また、自分だけで事業計画書を仕上げると、内容が独りよがりになりがちですので、一旦完成したら第三者の専門家に診てもらうことをおすすめいたします。
創業融資のチャンスは一回きりですので、出来るかぎり完成度を高めた上で提出しましょう。
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