事業を立ち上げて、避けて通れないのが「税金」です。
起業したての時は売上や利益があまり上がらないことも多く、「うちは節税とかあまり関係ないかも」と思われるかもしれませんが、利益が出ていないときでも、節税できる方法はあります。
今回は比較的手軽にできて効果の大きい節税をご紹介します。
まずは節税の種類と定義を確認
節税と言っても、大きく4つに分類することができます。
①制度型節税 :お金を使わずにできる、税制や税率構造を利用した節税
→※今回は主にこれを紹介
②繰延型節税 :一時的に税金が減るが、後で税金がかかる(出口戦略が必要)
→例:セーフティ共済(倒産防止共済)、小規模共済、生命保険(退職金積立)、短期前払費用計上など
③投資型節税 :お金は出て行くが、後々売上につながる先行投資
→例:広告宣伝費、従業員の決算賞与(モチベーションUP)、効率化のための設備投資(+特別償却)など
④消費型節税 :お金も出ていき、売上にもつながらない消費
→例:不必要な物品の購入(高級車)など
そして、節税の意義を、
『なるべくお金を使わず(キャッシュを会社に残しながら)、「所得税・住民税・法人税・消費税・社会保険料」の総額を減らすこと』
と定義付けします。
※税理士のアドバイスでは、特に社会保険料の観点が抜けがちです。
上記の意義に当てはめて、先ほどの4分類を見ていきますと、
④消費型節税はもちろん税金は減りますが、お金が残らないのでここでは紹介しません。
③投資型節税も節税ありきで行うものではなく、投資の必要性に応じて行うものですので、これもここでは紹介しません。
②繰延型節税については、法人の利益が、実効税率が高くなる800万円を超えはじめたら、検討する余地があります。(利益800万以下であればほぼ課税の繰延にすぎないため、コストパフォーマンスで考えるとあまり良いとは言えません。)
また、家賃の年払いなどが代表的ですが、節税効果が初年度に限定され、またキャッシュフローが悪化するため、これもおすすめできません。
ちなみに、法人税率は低下傾向にあるため(特に800万円超の部分が低下傾向)、利益800万円を超えたらセーフティ共済などで利益調整して、赤字のときや利益が少ない時に解約すると節税になります。
(参考:大阪市の中小企業の実効税率。平成27年4月1日以後開始する事業年度)
所得金額 | 実効税率 |
400万円以下 | 21.42% |
400万円~800万円 | 23.20% |
800万円超 | 34.33% |
①制度型節税はお金を使わず、節税効果の大きいものがたくさんあります。
今回は①制度型節税から5つ、②繰延型節税から2つ紹介します。
効果の大きな節税対策7つ
①役員報酬の適正設定
起業して当初で一番重要なのは、役員報酬を適正に設定することです。
役員報酬を増やすと、所得税・住民税・社会保険料が上がり、法人税が下がる
役員報酬を減らすと、所得税・住民税・社会保険料が下がり、法人税が上がる
という関係にあり、所得税・住民税・社会保険・法人税のトータルバランスで役員報酬の水準を決定します。
細かくは税理士さんにシミュレーションをしてもらうのが早いですが、
ざっくり言うと、役員報酬支給前の利益が800万を超えるまでは、役員報酬はなるべく少なめに(目安としては500万円ぐらいまで)支給することをおすすめします。
後で紹介する②や④も活用すると、可処分所得が増えるため少なく設定することも可能になるはずです。
特に、利益の少ないうちは社会保険料が大きな負担となる場合が多いため、低く設定しましょう。
法人利益が800万を超えてきたら、役員報酬を1,000万円程度まで増やしても問題無いでしょう。
ただし、今後の融資や事業拡大資金を考えると、なるべく法人に利益を残すことをおすすめいたします。
参考コラム:お金は個人・法人どちらに残すべきか?役員報酬の決め方と判断材料
参考コラム:役員報酬と配当、どちらが有利?「役員報酬の方が経費になるから得」って本当?
②配偶者への給与支給(所得分散)
経理や事務関係などを配偶者に手伝ってもらっている場合、配偶者を非常勤役員(または従業員)にして給与支給することが可能です。
配偶者が他に所得がない場合、おすすめは月80,000円程度を定額支給することです。
社長は配偶者控除(年間103万円以下)が使え、かつ社会保険上の扶養(年間130万円未満)にも該当し、源泉徴収義務も発生しないため、おすすめです。
(ただし、「扶養者の収入の半分未満の収入であること」が扶養要件のため、80,000円に設定する場合は社長本人の報酬を160,000円超に設定する必要があります。)
※2020年追記
本人の所得が900万円以下の場合(年収1,050万円以下)、配偶者特別控除という控除が使えます(配偶者の年収が150万円以下の場合は配偶者控除同様の控除が可能)。
ただし、社会保険の扶養要件は年収130万円未満のままですので、例えば月100,000円(年間120万円)まで増加させても、税制上も社会保険上も扶養にすることが可能です。
③消費税の設定(免税事業者、簡易課税)
これは節税というより無駄な税金を払わないための対策になります。
※以下の話は若干ややこしいので、なるべく税理士さんと相談しながら決めてください。
原則、設立から2事業年度は免税事業者となり、消費税の納税義務が免除されます。
まず設立時に決めておくこととして、
①免税事業者か課税事業者かの選択
②事業年度の設定
があります。
①基本的に免税事業者が有利になるケースが多いですが、輸出事業を行っていたり、初期設備投資がかさむ場合、払う消費税の方が多くなるため、課税事業者となることにより消費税の還付を受けられる可能性があります。それ以外の場合は、免税事業者を選択します。
なお、資本金が1,000万円以上の場合は、1年目から課税事業者になるため、資本金は1,000万円未満に設定しておきましょう。
②事業年度は設立1年目がなるべく長くなるように設定します。
例えば5月に会社設立が完了する場合、5/1~4/30を事業年度に設定し免税期間をなるべく長くします。
ただし、設立後半年の売上及び給料が1,000万円を超える場合は、2年目が免税とならず課税事業者となってしまいます。
売上のコントロールは難しいですが、給料のコントロールはある程度可能だと思いますので、設立後半年の給料は1,000万円を超えないように設定しましょう。
社員数が多いなど、どうしても超えてしまう場合は、1年目の事業年度を7ヶ月に設定して下さい。
例えば、5月設立であれば、5/1~11/30の7ヶ月を1事業年度として、2年目を12/1~11/30とします。これで2事業年度ともに免税事業者になることが可能です。
また、2年前の売上が1,000万円を超えると課税事業者になりますが、2年前の売上が5,000万円未満でしたら、
「原則課税」と「簡易課税」を選択することが出来ます。
2つの課税制度についての説明はここでは割愛しますが、「簡易課税」のほうが有利になるケースが多いと思われます。
どちらの課税制度を選択するかは税理士と相談しながら決めて下さい。
④役員社宅
役員の自宅を会社名義にして、社宅として経費計上します。
そのうち、役員から社宅利用料として一部を徴収します。
住宅費は大きい出費であり、これを経費化すると大きな節税効果となります。
また、役員報酬は少なくて済む(=所得税・住民税・社会保険料の節税)ので、一石二鳥の対策といえます。
社宅利用料は以下のような計算式の合計で求められますが、実際家賃の10%~20%くらいに収まることが多いです。詳しくは税理士にご相談下さい。
※小規模な住宅(床面積132㎡以下、建物の耐用年数が30年以下)の場合
①(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
②12円×(その建物の総床面積(㎡)/3.3㎡)
③(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
参考コラム:節税の定番「社宅」。社宅家賃の自己負担額はいくらにすべきか?
⑤出張手当の支給(※出張が多い人向け)
これは出張が多い人向けの節税対策です。
宿泊費(ホテル代)と日当の金額を出張旅費規程で定めておきます。
①宿泊費(ホテル代):実費精算ではなく、規程で決めた金額が経費計上できます。かつ、個人が受け取る実費との差額は非課税になります。
例えば、規程の金額が一泊10,000円で、実際のホテル代が7,000円の場合、法人の費用計上は10,000円となり、個人が受け取る差額分3,000円は所得税・住民税が課されません。
②日当も同じように規程で金額を決めておくと、法人での経費になり、かつ個人側で所得税が課税されないため、一石二鳥の対策となります。
⑥小規模企業共済、iDeCo (※役員報酬がある程度高い人向け)
「小規模企業共済」は繰延型節税で一番代表的な節税方法です。
ざっくり説明すると、社長の退職金を積立ておくための制度です。
ただし、これは法人で加入するものではなく、個人で加入するものになりますので、役員報酬の中から払う形となります。
メリットとしては、払った掛け金が全額所得控除できること(年間84万円まで)、受け取るときに退職所得として税制上優遇されていることが挙げられます。
特に、高所得の方は税率が所得税・住民税合わせると、50%や55%になっているケースもあるため、所得控除効果が大きくなります。
デメリットは、途中解約すると元本割れする可能性があること、退職するまでキャッシュフローのマイナスが固定されてしまうこと(ただし減額は可能)です。
掛け月が240ヶ月で解約返戻率100%を超えるため、まずは月1,000円で加入して年数を稼いでおくのもおすすめです。
中小機構HP:http://www.smrj.go.jp/kyosai/index.html
また、細かいデメリットしては、予定利率が1%と低く、インフレなど物価上昇場面では相対的に不利になります。
また、似たような制度として、「iDeCo」(確定拠出年金)があります。
小規模企業共済同様に、掛け金が全額所得控除でき、受け取るときにも税額の優遇がききます。
世の中の多くの金融商品よりも実質的な利回りは圧倒的に高くなるでしょう。
小規模企業共済にないメリットとしては、掛け金の運用が可能で、世界株式に連動するインデックス投資など比較的安全な方法で運用すれば、受け取るときには資金が増えている可能性があります。
デメリットは60歳まで中途解約ができず、資金を引き出すことができないことです。(掛け金の減額は可能です。)
小規模企業共済とiDeCoは併用も可能です。双方のメリット・デメリットを勘案して、好みの方で加入してもいいと思います。
iDeCo(確定拠出年金)については、以下のような書籍もおすすめです。
⑦経営セーフティ共済(倒産防止共済)
こちらも繰延型節税になります。
取引先の倒産時に、掛け金の10倍まで借り入れができる制度です。
保険的に使うことが本来の目的ですが、節税対策としてもよく用いられます。
こちらは法人で加入するもので、掛け金が全額経費計上(年間240万円、総額800万円まで)できます。
ただし、掛けた月数が40ヶ月以下の場合は元本割れしてしまいます。
前述したように、利益が800万円を超えそうなときに掛けておいて(または決算直前に1年間分の前払いも可能です)、赤字になりそうなときに解約すると良いでしょう。
(利益があまり出ていない状況ですと、ただの課税の繰延にしかなりません。)
セーフティ共済も小規模企業共済同様に、少額からかけておいてもいいと思います。
月5,000円から加入でき、少額でも加入期間としてカウントされ、40ヶ月以上掛けることで元本割れなしでいつでも解約が可能です。
番外:ふるさと納税
ふるさと納税は活用されていますでしょうか?
厳密には「節税」とはいえないものの、自己負担額2,000円(限度額あり)で各自治体からの名産品をもらうことができます。
寄付の限度額は年収によって、増減します。下記サイトなどでシミュレーションしてみてください。
https://www.satofull.jp/static/calculation01.php
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