「V字回復の経営」(三枝匡氏)は事業再生の名著として知られています。
私も事業再生に携わる身ながら、今まで手にとる機会はありませんでしたが、
今回初めて読んでみて素晴らしい本だと思いましたので、当ブログで紹介させていただきます。
「V字回復の経営」は正統派な組織論・戦略論の本
「V字回復の経営」は実在する会社を題材にしたストーリー仕立ての経営本で、非常に読みやすく書かれています。会計士による事業再生のアプローチは、「財務改善」や「採算分析、収益部門の見極め及び不採算部門の撤退」など数字からのアプローチが一般的ですが、この本は徹底的に「組織面からの改善」に焦点が置かれています。
特に社員数が多い会社経営者には色々な気づきを与えてくれると思います。
私が面白いと思った観点を何点かご紹介します。
機能別組織は本当に効率的か?
機能別組織とは、営業・経理・人事・生産…といった具合に、機能別に分けられた組織をいいます。
対する概念として、事業別組織(ユニット制)がありますが、事業別組織とは、製品・地域・顧客など事業単位に分けられた組織をいいます。
日本の多くの企業は機能別組織を採用していると言われています。
「アダム・スミスの分業論や規模の利益に基づき、機能別に組織を分けることが効率的」とどこかで聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。
本書では、全社員が『創って、作って、売る』『自らが商売人』という意識を持つ重要性を示していますが、特に組織が大きくなればなるほど、機能別組織では各社員が「商売」から遠くなってしまうデメリットを挙げております。
(ただし、社員10名以下の会社はそこまで意識しなくても良いかと思います。むしろ、機能別組織の方が効率的に事業運営できると思います。)
ここでのポイントは、組織の大きさ・成長に合わせて、組織形態を変えていくべきだということです。
大きな組織では、「組織を小さく分割」して(ビジネスユニット=BU)、各BUに社長を置き、権限委譲することで、BU社長に経営者としての意識を持たせるとともに、各社員が「売る」現場と近くすることにより、「商売」の意識を浸透させることが重要です。
(京セラ稲盛社長の「アメーバ経営」にもつながる話だと思います。)
本書に面白い表現があったのでご紹介します。
『本来なら経営の枢軸にいて「経営の面白さ」「経営の創意工夫」に生きがいを見出すべき日本のエリートの多くが、分業の機能別組織に閉じこもり、椅子の脚だけ作っているパーツ職人になっているのではないか。』
不振事業に見られる特徴は?
巻末に『不振事業の症状50』と『改革を成功に導くための要諦50』が掲載されていますが、その中でも重要性の高いものだけ一部紹介します。
サラリーマン経験のある方や大きい組織の経営者であれば、「そうそう」と思い当たるところもあるのではないでしょうか。
『不振事業の症状50』
症状1.組織内に危機感がない。一般に企業の業績悪化と社内の危機感は逆相関の関係である。
症状6.経営スキルの低い経営者が、社員の意識を変えるために「意識改革をしよう」と叫んでいる。
症状11.ミドルが問題を他人のせいばかりにしている。
症状19.社内では顧客の視点や競合の話がなく、内向きの話ばかり。
症状22.商品別の全体戦略が「開発→生産→営業→顧客」の一気通貫で行われていない。
症状46.事業全体を貫くストーリーがない。組織の各レベルで戦略が骨抜きにされている。
『改革を成功に導くための要諦50』
要諦9.「創って、作って、売る」をスピードよく回すことが顧客満足の本質。
要諦30.改革が「人減らし」だと受け取られてしまうと、改革に対して社員は防御的になる。
要諦45.早期の成功は、改革抵抗者の猜疑心を解きほぐす最大の武器になる。
→河野補足:事業再生の現場では、なるべく早く業績を上向きにして、経営者や社員さんに達成感を味わってもらうことが重要だと考えています。そのため、私は短期的に利益を出すために、徹底的に経費削減に取り組むようにしています。並行して、戦略立案・組織再編により、長期的な改善を行っていきます。
まとめ
中小企業の事業再生現場は、本書のストーリーとは少し異なる点もありますが、経営者であれば得られるものが多い本です。ここでは簡単にご紹介させていただきましたが、伝えきれていないエッセンスがまだまだふんだんに盛り込まれていますので、是非一度手にとっていただければと思います。
また、事業再生に強い税理士をお探しであれば、河野公認会計士・税理士事務所までお気軽にご相談下さい。
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