河野公認会計士・税理士事務所の河野です。
当事務所には融資に関するご相談を多くいただきますが、よくあるのが「役員貸付金が決算書に計上されているために融資を断られた」というものです。
たとえ黒字であっても断られたというケースも珍しくありません。
役員貸付金がなぜ融資に不利になるのか、また役員貸付金が発生してしまう原因と対策について、今回は解説したいと思います。
役員貸付金のデメリット
役員貸付金とは、会社から社長・役員に対して、貸し付けているお金のことを指します。
逆の、役員借入金(社長・役員から会社への貸付)は全く問題ありません。
さて、役員貸付金はなぜ融資のときに不利になるのでしょうか?
銀行は融資したお金は当然ながら会社運営に使われることを想定していますが、役員貸付金は私的に資金を流出させているのと同義であるからです。
特に、すでに借り入れがある場合は悪印象となります。(借入が全くない状況での申込みであれば、融資可能性はありますが、ないことに越したことはないです。)
役員貸付金だけでなく、例えば融資金を株式につぎこむような行為も資金使途違反になり、厳しく問われることになります。
(余談ですが、設備資金として受けた融資を運転資金に回した場合も資金使途違反になる場合もあります。)
また、税務面においては、到底返せないほどの多額の役員貸付金が計上されている場合は、返済不能として役員賞与とみなされ、所得税・住民税がかかってくる場合もあります。
そもそも、なぜ役員貸付金が発生してしまうのか
経営者の中には、意図的に会社から社長に貸付など行った覚えはないのに、決算書が出来上がったときにはなぜか計上されていた、というケースも多いのではないでしょうか。
発生する原因として、よくあるのが下記の4つです。
原因1.口座からお金の引き出し
現金の経費に使うためにお金を引き出すことも多いのではないでしょうか。例えば、まとめて20万円などざっくり引き出し、経費で使った分は問題ありませんが、問題はその使わなかった分を会社口座に戻さなければ、それが役員貸付金になってしまいます。私が見る限り、これが発生原因として一番多いように思います。
原因2.法人クレジットカードに私的な出費
2番めに多いのが、私的な支出(経費にならない支出)を法人クレジットカードで決済してしまう場合です。当該支出分を会社口座に戻す必要がありますが、戻さずにそのままにしていると役員貸付金になります。
原因3.現金売上を個人の財布に入れたまま
基本的に現金売上は会社口座に移したほうが良いかと思いますが、個人の財布に入れたままにしていると、役員貸付金になります。
原因4.極端に少ない役員報酬
これは間接的な原因になりますが、いくら生活費が少ない場合でも役員報酬が少なければ、会社からお金を引き出す必要があり、それが結果として役員貸付金になります。
役員貸付金を増やさない対策
原因が分かれば、対策はその裏返しになります。
対策1.会社口座からお金を引き出さない
経費は基本的に法人クレジットカードで決済することをおすすめします。
クレジットカードが使えず、現金の経費が発生する場合も、一旦社長自身の財布から立て替え、立て替えた分は給与などと一緒に精算をする、これを行えば理論上は役員貸付金が一切発生しないことになります。
経費の金額が大きく立て替えが難しい場合でも、経費額通りの金額を引き出すようにしてください。
対策2.税理士との経費認識のすり合わせ、もしくは自計化
法人クレジットカードで私的支出をしてしまった場合はその金額を会社口座に戻してください。
一方で、特に税理士に領収書関係を丸投げしている場合によく見られる光景ですが、本人は経費として思っていたものが、税理士側で否認され、結果として役員貸付金になってしまうケースです。これを防ぐためにも、経費にする/しないの線引についての認識はすりあわせておくべきです。
できれば、記帳代行や丸投げにはせず、自社経理(自計化)を行うことができれば、経営者自身の意識も敏感になって良いと思います。
対策3.役員報酬はある程度取る
生活費ぐらいの役員報酬は取るようにしてください。(配偶者への給与支給でも可)
生活費の大きな部分を占める家賃は、社宅にすることも可能な場合もあります。
参考コラム:節税の定番「社宅」。社宅家賃の自己負担額はいくらにすべきか?
一度増えてしまった役員貸付金はどう減らしていくか
上記はあくまで今後増やさないための対策で、すでに増えてしまった役員貸付金は減らしていく必要があります。どのように減らせばよいでしょうか。
1.個人に資金があれば、それで返済する
これが一番早いですが、個人資金がなければ別の方法を考える必要があります。
2.役員報酬からの返済
少し多めの役員報酬を設定し、そこから返済していく方法です。
役員貸付金の金額が大きい場合には解消まで時間がかかる可能性もあります。銀行にも返済計画を説明したほうが良いでしょう。
3.債権放棄(貸倒損失)&役員賞与として処理
役員貸付金が原因で融資が受けられない状況において、どうしても融資を受ける必要があり、資金繰りが立ち行かない場合は、役員貸付金の債権放棄(会社から返済の免除を行うこと)を行い、同金額を役員賞与として自ら所得税・住民税を払う方法です。債権放棄分は会社経費(損金)にならず、税金面で考えると損ですので、この方法はあくまで資金繰りのための最終手段になります。
(事業再生の場面などにおいては、この方法を取る場合もあります。)
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